よそにはないもの 〜山形在住の画家・多田知史くんの絵から教わったこと〜
2012年 12月 18日
「なつこむぎ」
とおくのものがここへ来ると
きまって言う
ことばがあります。
「ここはなんにもねえんだな。」
だから、そんな時にはね、
「あなたのところに無いものが
ここにはみんな、ありますよ。」
絵本「ななつうた」(2007年)より
絵と文:多田知史
「地域の魅力」を考える時に、多田知史くんの絵と言葉が、すごくしっくり来るのです。
多田くんは、山形市在住の画家、かつて大学でクラスメートでした。
大学のある場所は、後ろには山、近くの市街地にも田んぼや小さな林が点在する緑の多いところでした。多田くんも山形出身。もしかしたら、彼もかつてのわたしと同じように、地元より外へと気持ちが向いていたこともあったかもしれません。
多田くんのこの「なつこむぎ」の絵に出会ったのは、たしか山形での個展。卒業してからだいぶ経ち、わたしはその頃、たしかオーストラリア行きを決めていた頃だったと思います。当然、視線の先は外へ。地元の(自分にとって)好ましくないようなところばかり見えていたこともあり、「やっぱり自分は外へ行こう」という思いが強くなっていたところでした。
そこに、彼の言葉。
「あなたのところに無いものが
ここにはみんな、ありますよ。」
絵の中には、広く広く続く青空と黄金色の稲穂。田んぼの広がる、地元の景色をそこに見るようで、ハッとさせられたことを覚えています。
その時はわたしはその理由を考えないようにしました。もうすぐ離れようとしている地元。ここではないどこかで暮らすと決めた覚悟を崩したくなかったせいもあります。
そして、今、遠くに住んだ数年を経て地元に戻り、また彼の言葉を思い出しました。遠く遠く離れるほど、自分のルーツを否応なく意識させられます。海外に住んだことで自分の根っこが、日本の、そして山形の、ここ地元にあると改めて強く思わされるのでした。
かつて、彼の絵の「とおくのもの」のようになんにもない場所だと思っていたこの地に、その頃見えなかったたくさんの魅力を今のわたしは見つけました。
よそにはないもの。ここにだけあるもの。そういうものを、他の場所・地元の外や県外の人たちとも共有していきたい。今のわたしの立場じゃ、まだまだ理想論なのかもしれないけれど、そんなふうにたくさんの魅力を伝え、広める役目を果たすことが目標です。
多田くんの作品は、まるで自分の原風景のように、その世界にいつの間にか入り込めてしまう。暖かい気持ちになれるんです。原画を見るチャンスがあったらぜひ!
多田知史くんのプロフィールはこちらから
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